よくある請負代金に関するトラブルに関する類型とその対応(予防策,事後的な対応策,裁判実務)について,解説します。
1.よくある『請負代金額』のトラブルの類型
① 契約時に工事代金を定めなかったケース(出来高払い型)
ⅰ 工事が完成した後、工事代金を請求したところ、工事代金が高額であるとして注文者がその支払を拒むケース
ⅱ 中途解約の際に、工事の出来高が問題となるケース。
② 契約時に工事代金を定めたが、建物の詳細仕様を定めなかったケース(仕様の明細欠如型)
ⅰ 仕様レベルが争点となるケース
仕様変更にあたるか否か争いとなる、
ⅱ 本工事に含まれるか否か問題となるケース
追加工事代金が発生するか否か争いとなる。
③ 工事代金額が不明確なケース(見切り発車型)
見積書→発注書→請書→請求書はあるが、工事代金額を明確に定めた契約書がない場合ケース(例えば、見積書の金額を査定し、金額を書き込んだものを所持しているケース)
→ 工事代金額につき双方の合意がないため、工事代金額が争いとなる。
2.予防策
①について(出来高払い型)
できるかぎり、完全出来高払い型の契約を回避すべき
↓ 仮に出来高払い型の契約にするのであれば
ⅰ 工事代金総額を定める
ⅱ 各工事内容および各工事代金額を明確にする
ⅲ 毎月の工事代金支払額を、工事の進行状況に応じた出来高払いとする
②について(仕様の明細欠如型)
詳細見積書の内容を詳細まで記載する(各工事の種類・内容・金額、各商品の品名・内容・量、仕様の詳細)。変更があった場合、必ず、変更合意書等で明確に変更合意を形に残し、それに要する追加代金等を明示する。
③について(見切り発車型)
工事代金額について明確な合意をし、その合意内容を契約書として作成する。それにより、注文者による一方的な減額要求を防止する。
3.事後的な対策(請負業者の立場から)
①について(出来高払い型)
ⅰ 各工事の工事代金額の明細を提示する
ⅱ 工事代金額が相場に照らし相当であることを、他の事例を示しながら注文者に説明する
ⅲ 最終的に、双方が譲歩をし、ウィンウィンの関係をつくる
②について(仕様の明細欠如型)
特に商品の品質について合意のない場合、民法上中等のものを提供すればよい。居宅のうち、マンションの場合、賃貸用か分譲用か、戸建ての場合、建売住宅か注文住宅かによって、中等のレベル(一般的な品質)が異なる。そのため、各住宅に応じた一般的な商品ではなく、それを超える上等な商品であることを、注文者に対し、丁寧に説明することが肝要である。
他方、オフィスの場合、何が中等のものか判然としないケースが多い。とはいっても、請負業者の担当者は、注文者が指定した商品が、見積金額を大幅に超過することを説明し、追加代金の支払を求めることが肝要である。
平成32年施行の改正民法では,「瑕疵」という用語から「契約不適合」に変更され,契約に適合するか否かが瑕疵の判断基準となる。そのため,契約内容を契約書で明確化することが求められる。
③について(見切り発車型)
工事が完了し請求書を送付したところ、注文者が工事代金額を争うケースが典型例である。担当者同士が話し合いをし、工事代金額を査定し、詰めることになる。今後も取引関係が継続するのであれば、それも加味した形で話し合いを行うことが望ましい。
4.裁判実務
①について(出来高払い型)
裁判になると、原告と被告の双方が、それぞれ各工事代金額の総額とその出来高割合を主張・立証し、裁判所がこれを判断する。一般論として、請負業者の利益部分が考慮されず、工事代金額が低額となる傾向がある。
②について(仕様の明細欠如型)
裁判では、主に以下の点が争点となる
ⅰ 当該建物における中等の品質とは何か
ⅱ 追加変更の合意の有無
A 考慮要素
追加合意の有無、建物の種別、商品の金額(大幅に超過する場合、追加変更の合意の存在、ないし、商法512条で相当額の請求が認められる可能性がある。)、商品の種類・数等
B 立証責任
契約書の仕様書が不明確である場合、追加工事であること(追加工事の合意)の立証責任は請負業者にあり、その立証が出来なければ、追加工事代金は認められない。
③について(見切り発車型)
裁判では、以下の点が問題となる
ⅰ 工事代金額を合意した経緯
ⅱ 会計書類における計上
ⅲ 上記から判明しない場合、裁判の中で解決することになる